糖尿病
糖尿病
糖尿病治療は生活習慣病の中で最も簡単ではなく、かつては作用時間が中途半端なインスリンと、予期せぬ低血糖が時折起こるSU薬が治療の主役で、血糖コントロールに難渋することもしばしばありました。しかし、糖尿病は内科の中で最も中核的な分野の一つですので、その後、グローバル製薬企業により新薬開発が優先的・集約的に行われ、次々に新薬が誕生して治療は着実に進歩し、今なお進歩のスピードが緩んでいない領域です。2025年の年始にはついに1週間に1回打てばいい長時間作用型のインスリンも出てくるようです。
さあ、薬は揃ってきました。しかし薬が揃っても、食事と運動は変わらず重要です。かくいう私も内臓脂肪が多めで、HbA1cがちょっと高めです。一緒に頑張りませんか。
糖尿病は血液中の血糖値が高い値を持続する病気です。大きく1型糖尿病と2型糖尿病に分かれています。1型糖尿病は血糖値を下げる働きのあるインスリンの膵臓(膵臓の中にあるランゲルハンス島β細胞)からの分泌低下が原因ですが、2型糖尿病は生活習慣病の一つとされ、発症にはインスリンの分泌不足のみならず、運動不足、肥満、ストレスといった生活習慣が関係していると考えられています。日本人ではこの2型糖尿病の患者さんが圧倒的に多いのが現状です。
2型糖尿病は初期症状がほとんどなく、健康診断などの機会にたまたま発見されることも多いです。糖尿病自体がごく軽度でも、高血圧症、脂質異常症、内臓肥満など、他の生活習慣病があると、初期から血管障害を引き起こすことがあります。
血管障害には2種類あります。細小血管障害といわれる網膜症、腎症、神経障害と、大血管障害である冠動脈疾患(狭心症、心筋梗塞)、脳血管障害(脳梗塞)、末梢動脈疾患などです。近年では、糖尿病の合併症を、動脈硬化症(arterial sclerosis)、血管実質臓器障害(vascular parenchymal mix)、実質臓器障害(parenchymal tissue disease)に分類する研究者もいます。この実質臓器障害には、がんのリスク上昇も含まれます。近年注目されている脂肪肝・NASHからの肝細胞がんもその1例で、その他、大腸がんや膵がんもリスクが上昇すると考えられています。
血糖値は食事の前後や時間帯などによって大きく変動します。そこで安定した血糖値の状態を表す指標として、現在、広く使われているのがHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)です。過去1~2ヶ月の平均血糖値を反映し、糖尿病の合併症予防のための血糖コントロールの管理に有効とされています。しかし、HbA1cの値のみでは糖尿病と診断できません。
まず、以下のいずれかが確認されれば、「糖尿病型」と判定されます。
そのうえで、高血糖が慢性に持続していることが確認されれば糖尿病と診断されます。
運動・食事療法は2型糖尿病の予防・治療の基本です。糖尿病が進行していない状態では、薬物療法を行う前にまず運動・食事療法が必要です。どちらもなかなか実行に移せませんが、食事については少なくとも必要性は理解されますが、もう一つの運動に関してはいまひとつその重要性について実感されていません。しかし、現在では運動は単にカロリー消費するだけではなく、以下のようなメカニズムが次々と明らかにされ、糖尿病治療において重要な療法であるとますます認識されてきています。
骨格筋は体重の約40%を占める人体最大の臓器ですが、単に筋収縮・運動を行って身体活動を支えるだけでなく、実は様々な作動物質を分泌し内分泌・代謝を司る“高等”臓器です。それらの作動物質はマイオカイン(myokine)と総称されています(B.K. Pedersen, 2003)。最初に発見されたmyokineはミオスタチン(myostatin)です(Se-Jin Lee, Nature 387, 83–90 1997)。Leeらは、生まれつき過剰に筋肉が発育する「筋肉マウス」を発見し、その原因がmyostatinという物質の欠損であることを突き止めました。さらに筋肉が過剰に発育する牛でも、同じくmyostatinが生まれつき働いていないことを突き止めました。このmyostatinは筋肉細胞から分泌され、周囲の筋肉細胞に成長を止めるシグナルを伝えています。例えば、筋力トレーニングを行うと筋肉細胞が成長しますが、同時にmyostatinを分泌して増えすぎを抑制します。
その後、様々な物質がmyokineとして発見・認識されましたが、糖尿病と関連し最も重要なものの一つがインターロイキン6(IL-6)という物質です。IL-6は、もともと1986年に免疫細胞が出す物質として日本の研究者により発見されていましたが、このIL-6もまた運動時に筋肉から大量に放出されることがわかりました(B.K. Pedersen, 2003)。IL-6の作用には、免疫の過剰な亢進状態を引き起こす作用と、抑制する作用とがあり、多面性を有しますが、myokineとしてのIL-6は抑制すると考えられています。そして、2型糖尿病において重要な内臓脂肪症候群/メタボリックシンドロームの人の体内では、免疫の過剰な亢進状態が引き起こされており(Gokhan Hotamisligil)、それが全身の血管障害を引き起こし、冠動脈疾患・脳血管疾患などの合併症を招く危険性が高くなっています。そこに運動を行うと、筋肉組織から分泌されるIL-6が免疫の過剰な亢進を抑制し、さらに内臓脂肪が減少します(Se-Jin Lee)。その効果が本当にIL-6による効果であるのか確認するため、抗IL-6受容体抗体を内臓脂肪型肥満者に投与しました。内臓脂肪型肥満者において12週間の運動を行うと内臓脂肪が減少しますが、抗IL-6受容体抗体を投与して、IL-6の働きを特異的に抑制するとその効果は完全に消失しました(Cell Metabolism 29:844-855, 2019)。すなわち、運動を行うと筋肉からIL-6が放出され、そのIL-6の働きにより免疫の過剰な亢進状態を抑え、内臓脂肪も減少すると考えられます。
その他のmyokineとして、がんの増殖を抑制する可能性があるのがSecreted Protein Acidic and Rich in Cysteine(SPARC)です。SPARCは加齢により低下し、運動によって増加します。運動すると筋肉中で増えたSPARCが血流を介して腸に到達し、大腸がんの芽になる細胞を認識しアポトーシス(細胞死)に導くことが動物実験や細胞の培養試験によって確認されています(Aoi, W. Gut 62:882– 889, 2013)。
また、記憶力を高める可能性があるmyokineがカテプシンB(Cathepsin B)です。運動後にCathepsin Bが増えた人ほど、記憶力テストの成績が向上したという報告があります(H.Y. Moon, Cell Metabolism 24, 332-340, 2016)。運動習慣が記憶を司る海馬の容積を増大し認知機能の維持・向上に寄与する(Kirk I. Erickson, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 108:3017-3022, 2011)とされていますが、このCathepsin Bが海馬の神経細胞を増やす可能性があると考えられています。
以上、運動の効果を示したエビデンスの一端で、運動を定期的に行い、筋肉量を保つことがいかに重要かよく理解できます。
近年サルコペニアという用語が流行っています。ギリシャ語の「サルコ」=筋肉と、「ぺニア」=喪失を組み合わせた造語です。その名の通り、筋肉量が少なく、筋力/機能が低下している状態をさし、2型糖尿病の病態をより悪くします。
運動療法の実際:運動の種類には
の2種類あります。両方の運動を行うのが好ましいのですが、優先するなら有酸素運動で、強度は中強度です。中強度とは、最大酸素摂取量(VO2max)の50%に相当する運動で、心拍数100~120 beats/minとなる、ややきついと感じる強度です。運動強度の簡便な目安としてMETabolic equivalents:METsがあります。安静時代謝量の何倍に相当するかという目安で、徒歩なら3METs、速歩なら4METs、軽いジョギングなら6METs、ランニングなら8METsです。わざわざ行う運動以外にも、日常生活活動によるエネルギー消費も大事で、Non-Exercise Activity Thermogenesis:NEATと呼びます。 なお、有酸素運動には急性効果と慢性効果があります。急性効果に相当する消費エネルギーは、カロリーとしては少なく、例えば1時間の速歩は160kcalにしか相当しませんが、慢性効果によりミトコンドリアが増加し基礎代謝を亢進させます。基礎代謝は1日消費カロリーのうち約70%を占めることからこの基礎代謝を亢進させることはとても効果的です。
運動による消費エネルギーは、1型糖尿病の方で強化インスリン以上の治療を行っている場合は、その運動消費カロリーに応じた糖分の摂取、あるいはそれを見越したあらかじめの追加インスリンの減量が必要であり、大まかにkcal計算します。例えば、体重60kgの人が、軽いジョギング(6 METs)を30分間行うと、6 METs x 60 kg x 0.5 hour = 180 kcal となります。
内臓脂肪がメタボリックシンドロームの中核であり、2型糖尿病の病態・治療を考えるうえで重要であることは多くの方がご存じかと思います。筋肉が単に筋収縮・運動だけを行っている組織でなく、マイオカイン(myokine)と呼ばれる様々な作動物質を分泌するのと同じように、内臓脂肪組織もまた単なる脂肪の貯蔵庫ではなく、アディポカイン(adipokine)と呼ばれる作動物質を分泌し内分泌・代謝を司る“高等”臓器です。adipokineの中でも最も重要なものの一つがアディポネクチン(adiponectin)で、日本人研究者が抗動脈硬化因子として最初に報告しました。adiponectinは冠動脈疾患患者の血液中で低く、動脈硬化の実験モデルを作成し、このadiponectinを同時に添加しておくと,その動脈硬化性が抑制されることから、抗動脈化作用を有することがわかっています。また、糖代謝を改善、血圧上昇を抑制する作用があるのですが、肥満になってしまうとその血中濃度が低下し、糖代謝異常・高血圧を誘導することでメタボリックシンドロームが進行してしまいます。つまり、adiponectinは善玉のadipokineです。とはいえ脂肪組織から産生・分泌されるため、脂肪萎縮症という疾患でも血中濃度が低値となります。adiponectinは内臓脂肪が健康的に“程よく”あるときが最も血中濃度が高いことになります。反対に悪玉のadipokineがTNF-α、アンジオテンシノーゲン、レジスチンなどで、肥満になり内臓脂肪が増加すると血中濃度が上昇します。肥満になると血中濃度が低下するアディポネクチンとは対照的です。
adiponectinは異所(脂肪組織以外から)発現が誘導されることがあります。例えば、肝臓、心筋、骨格筋で炎症が起こるとadiponectin遺伝子や蛋白が発現してきます。腎不全や心不全、肝不全をはじめ、血管性痴呆やアルツハイマー病、全身性エリテマトーデスなど、慢性的な炎症を起こしていると思われる患者さんでは、血中濃度が非常に高値となります。つまり、肥満や冠動脈疾患などで血中濃度は低下する一方、心不全や腎不全まで症状が悪化すると、今度は濃度が上昇するため、2型糖尿病患者さんでadiponectin血中濃度を測定する場合は、合併症が有るか無いかによって解釈が異なってきます。
食生活に配慮して、内臓脂肪を増加させないことがいかに重要かよく理解できます。ちなみに運動は2型糖尿病の病状改善に極めて重要ですが、運動だけで内臓脂肪を減少させることは難しく、内臓脂肪のコントロールという観点からは、適切な食生活が最も重要です。なお、運動習慣は過度な食欲を抑制する効果があることを示唆する基礎的実験結果があります(Chun-Xia Yi, Physiology & Behavior 106:485-490, 2012, Killgore WD, Neuroreport 24:962-967, 2013)。また、動物性脂肪の過剰摂取が運動量を減少させるという基礎的実験結果もあります(Friend DM, Cell Metabolism 25:312-321, 2017)。
内臓脂肪量はCT検査や体組成測定機器により正確に把握できますが、簡便な指標としてはBody Mass Index (BMI)があり、2型糖尿病の方では重要なコントロール指標です。しかし、1点注意すべき点は、内臓脂肪が多いのに、筋肉量が減少しているため、内臓脂肪が多いにもかかわらず、BMIが25未満の一見正常値を示す隠れメタボの方が少なからずおられることです。食生活の配慮はBMIの値にかかわらず重要です。
食生活に配慮して食事療法を行う場合、血糖調整を目標とする場合は炭水化物に注目し、カーボカウントを行います。カーボカウントには炭水化物の全体量をカウントする基礎カーボカウントと、インスリン量を調整するための応用カーボカウントがあり、進行した2型糖尿病と1型糖尿病の場合は応用カーボカウントが必要となります。一方、エネルギーと食事のバランスを主な目標とする場合は「食品交換表」が参考となります。
2型糖尿病に対する薬物療法は2007年以後、新たな作用機序(mode of action:MOA)の薬剤が登場し大きく変わってきています。その最初がDPP-4(dipeptidyl peptidase-4)阻害薬で、2007年にシタグリプチン(sitagliptin)が米国FDAで承認されたのに続き、2009年には日本でも承認されました。DPP-4阻害薬のMOAは初めて聞く場合には複雑に聞こえますが、よく考えると単純です。血糖のコントロールにはインスリンとグルカゴンの働きが重要なのですが、インクレチンという小腸から分泌されるホルモンはインスリンを増加し、グルカゴンを減少させ、血糖値が高くならないように調節します。このインクレチンは通常ならDPP-4により短時間で分解されるのですが、DPP-4阻害薬を投与することにより分解が抑制され、作用が延長し、その結果、血糖が低下します。ここで、都合がいいことに、インクレチンは、血糖が高値の時は作用を発揮して血糖を低下させるのですが、血糖が低値の時は作用を発揮せず、低血糖を引き起こすことはほぼありません(単剤投与の場合)。DPP-4阻害薬はこのようにインクレチンに作用することからインクレチン関連薬に含まれ、新しいMOAの治療薬として、また単剤投与では低血糖を引き起こしにくい糖尿病治療薬としてかつて脚光を浴びました。経口薬であることから他剤との合剤が多数製造されています(インスリン分泌が残存している患者さんでないと有効でないので、1型糖尿病に適応はありません)。 しかし、血糖やHbA1cといった代替指標(surrogate marker)は低下させるのですが、動脈硬化性疾患の発現や死亡(生存期間延長)などの指標における有効性は明確には示せていません。また、DPP-4は血糖コントロール以外にも生体内であまりにも多い作用を有し、それらの多面的作用につき不明な点もあります。
ナトリウム・グルコース共役輸送体2(sodium glucose co-transporter 2:SGLT-2)とは、腎臓の近位尿細管という部位にあり、尿から糖を体内に戻す輸送体です。このSGLT-2を阻害すると糖の再吸収が阻害され、尿から体外へ排泄されてしまい、糖を体外へ喪失してしまうのですが、糖尿病の場合は血糖を低下させるという効果があります。その働きはインスリンに依存しないので、低血糖を引き起こす可能性が低い薬剤です。日本では2014年承認され、当初はその効果がやや過小評価されていましたが、単に血糖を低下させるだけでなく、心不全治療にも効果があり、腎保護作用もあることが徐々に判明し一躍注目されるようになりました。患者さんの病状によっては、糖尿病の初回治療薬として投与されることが増えています。やはり経口薬であることから他剤との合剤が製造されています(SGLT-2阻害薬も2型糖尿病に対する薬剤ですが、一部1型糖尿病に使用できるものもあります)。
GLP-1はインクレチンの一つで、インスリン分泌を刺激して血糖を低下させる効果があります。インクレチン自体だと体内でDPP-4により急速に分解されてしまうため、GLP-1受容体作動薬はGLP-1受容体に作用する働きを残す程度にGLP-1のアミノ酸配列を一部変えています。そのためインクレチン摸倣薬(incretin mimetics)とも呼ばれています(インスリンとインスリンアナログの関係に似ています)。DPP-4阻害薬と比較すると、生理的濃度を超えた薬理的濃度に相当する量を投与することが可能であるため、より確実な有効性を備えています。また、体重減少効果もあり、内臓脂肪が過多の患者さんではより本質的な治療薬とも言えます。血糖低下作用はDPP-4阻害薬と同じく低血糖時には働かないことから、より強力な効果と相まって、厳格な血糖・HbA1cコントロールを目指した「攻め」の治療が可能です。また、代替指標(surrogate marker)である血糖やHbA1c低下作用や、体重減少効果のみならず、outcomeとしての心血管イベントの発現が減少すると報告されています(Marso SP, N Engl J Med 2016; 375:311-322. Marso SP, N Engl J Med 2016; 375:1834-1844. Gerstein HC, Lancet 394:121-130, 2019)。現在では1週間に1回投与ですむ薬剤(デュラグルチド、セマグルチド)もあり、利便性も向上しています。注射薬であることから投与が煩雑に思え、患者さんにとって治療開始するうえで心理的ハードルが高いこともありますが、治療開始してみると簡便かつ安全であることがわかり、治療を中断される患者さんは少ないようです。 GLP-1受容体作動薬はインスリン作用を増強する薬剤なので低血糖をきたしにくい反面、進行してインスリン分泌能が残存していない患者さんには無効です。投与前にc-peptide値などでインスリン分泌能が残存しているか確認することが必要です。もし、残存していない場合はインスリンアナログを治療薬として選択する必要があります(GLP-1受容体作動薬も2型糖尿病に対する薬剤で、1型糖尿病には適応はありません)。
新しいMOAの薬剤として、チルゼパチドが2022年5月にUS FDAで承認され、日本でも2023年4月に使用可能となりました。本剤は合剤ではなく、単一の薬剤で、GLP-1受容体とGIP受容体の両方に作用するという特徴のある薬剤です。HbA1c低下作用、体重減少効果ともに、GLP-1受容体作動薬と比較して高いことが期待されています。GIPはGLP-1と同じくインクレチンで、インスリン分泌を促進し、グルカゴン分泌を抑制すること、食欲低下作用があることは共通していますが、異なる作用も多く、GLP-1受容体作動薬で効果不十分の場合はこのチルゼパチドを試してみる価値があります。本剤は販売開始後1年を経過しましたので、ようやく2週間を超えて処方することが出来るようになりました(GLP-1/GIP受容体作動薬も2型糖尿病に対する薬剤で、1型糖尿病には適応はありません)。
メトホルミンは古くから市販されている薬剤ですが、乳酸アシドーシスを引き起こしうる薬剤として使用が限定されていました。しかし、途中から海外で見直され、ガイドラインでも2型糖尿病でとりわけ肥満を伴う場合には最初に使用すべき薬剤として長らく推奨されてきました。現在でもその評価は変わっていませんが、近年、合併症を有する場合はSGLT-2阻害薬やGLP-1受容体作動薬が優先される場合もあり、立ち位置は変化しつつあります(メトホルミンも2型糖尿病に対する薬剤で、1型糖尿病には適応はありません)。
ミトコンドリア機能改善薬として、2021年に登場した新しい薬剤です(イメグリミンも2型糖尿病に対する薬剤で、1型糖尿病には適応はありません)。
インスリンは1921年に発見され、その2年後にインスリン製剤が発売されましたが、当初は動物から抽出したものであり、不純物も多く含まれていました。その後、1980年代に遺伝子組換ヒトインスリンが使用可能となったことで治療が大きく進歩し、2001年にはインスリンのアミノ酸配列を置換させたインスリンアナログが出現しました。あえてアミノ酸配列を変えることにより、作用時間がより短いもの(超速効型)と、より長いもの(持効型)を別々に作成し、両者を用いてより生理的な血糖コントロールに近づけることができるようになりました。また、注射に用いる穿刺針も34Gときわめて細く、痛みがより軽度なものが開発されています。さらにはインスリン注射に用いる機材が使いやすい完成度の高いものとなりました。これまでのインスリン注射治療は、痛い、つらい、厄介、という暗いイメージが付きまとっていましたが、これらの進歩がそのかなりの部分を払拭しました。超速効型にはインスリンアスパルト、インスリンリスプロ、インスリングルリジンなどがありで、1日3回毎食前に投与する追加インスリンアナログです。持効型にはインスリングラルギン、インスリンデテミル、インスリンデグルデクなどがあり、1日1回投与する基礎インスリンアナログです(なお、自己インスリン分泌がほとんど期待できない進行した1型糖尿病では、超速効型インスリンアナログを24時間持続的に小型のポンプにより投与することを検討します)。 また、インスリン治療の効果が過剰で低血糖をきたしていないか、あるいは効果が不十分で高血糖状態であるかを確認するために、自己血糖測定が必須となります。自己血糖測定には、SMBG(Self-Monitoring of Blood Glucose)による血糖測定と、CGM(Continuous Glucose Monitoring)による持続的な間質液中の糖濃度測定の2種類があります。自己インスリン分泌がかなり低下している場合など、血糖のコントロールが難しいことが予想される場合はCGMを選択します。CGMには間歇スキャン式CGM (intermittently scanned CGM:isCGM)とリアルタイムCGM(real-time CGM:rtCGM)の2種類があり、isCGMが多くの施設で使われています。isCGMはFlash Glucose Monitoring:FGMとも呼ばれます。CGMでは自動的に糖濃度測定ができることから、夜間睡眠中の糖濃度測定が可能です。
1型糖尿病は膵島の炎症(膵島炎)によるインスリンの絶対的不足が原因となって血糖コントロールが難しくなる疾患です。膵臓は消化酵素を作って十二指腸内に分泌し、脂肪を中心とした食事内容を消化するという外分泌機能以外に、インスリンとグルカゴンを適切に分泌して血糖をコントロールするという内分泌機能があります。そのインスリンとグルカゴンを分泌しているのが膵臓内の膵島という場所にあるβ細胞とα細胞です。インスリンはβ細胞から、グルカゴンはα細胞から分泌されます。この膵島炎により残存膵β細胞が20~30%に減少すると血糖コントロールが悪化し、1型糖尿病と診断されます。1型糖尿病の発症頻度は民族により大きく異なります。日本人を含めた東アジア人では、糖尿病患者さんのうち1型糖尿病患者さんの割合は5%以下で、欧米人では15%以上であるのと比較するとかなり低くなっています。 1型糖尿病を成因から分類すると、
発症様式から分類すると、
に分けられます。この中で、自己免疫性で急性発症である場合が最も多く、その発症時に発熱、下痢、嘔吐などのストレス状態であれば、ケトアシドーシスという緊急治療を要する病態であることもあります。 1型糖尿病といっても、膵β細胞からのインスリン分泌がわずかながらでも残っている状態と、進行してインスリン分泌がほぼ枯渇した状態とではコントロールの難易度はかなり異なります。残存している場合では、持効型インスリンアナログと超速効型インスリンアナログを併用した強化インスリン療法を、進行している状態では、インスリンポンプ療法(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion:CSII)が必要になってきます。CSIIには24時間糖濃度を測定するContinuous Glucose Monitoring:CGMと連動させる機器が販売されています。ただし、測定しているのは血糖ではなく、間質の糖濃度であり、SMBGによる補正が必要であること、トラブル時のバックアップとしてSMBGの使い方を習得済みであることなどの条件があります。
妊娠に関連する糖尿病には、
の3病態があります。このうち妊娠糖尿病は、糖尿病に至っていない糖代謝異常です。妊娠中の糖代謝異常/糖尿病は、出生時体重が4,000g以上の巨大児を含めた胎児の様々な異常の誘因になることから、厳格なコントロールが必要です。
Page Top