一般内科
一般内科
高血圧症の患者さんは、日本に4,300万人いると推定さています。一般的な疾患でありすぎて、治療の必要性などが十分に認識されていないように感じます。高血圧は放置すると様々な合併症のリスクがあり意外に怖い疾患ですが、内服治療してコントロールすることは多くの場合、とりわけ初期は容易です。治療の甲斐がある疾患であると言えます。
血圧は上と下があり、上が収縮期血圧(systolic blood pressure: SBP)で、下が拡張期血圧(diastolic blood pressure: DBP)です。高血圧の目安は、診察室で140/90 mmHg以上、家庭血圧で135/85mmHg以上です。SBPとDBPが異なる分類に属する場合は高い方の分類に区分します。例えば、診察室で 138/92mmHgなら高血圧となります。しかし、血圧を1回測定していきなり高血圧とは診断されません。外来なら測定を一度に2回行い、その平均値を記録します。2回の測定値が大きく異なる場合にはもう1回測定します。そして一度(1日)ではなく、二度以上の異なる機会(別の日)でも高いときに初めて高血圧と診断します。とはいえ、病院に来ると居心地が悪いので、そのために家庭血圧は正常なのに診察室血圧だけが高くなる方もいて、白衣高血圧症と呼びます。この場合、家庭で血圧測定を複数回行い、家庭血圧が本当に正常なら真の高血圧ではありません。逆に診察室では低いのに家庭血圧が高い方は仮面高血圧と呼び、見過ごされることが多いので注意が必要です。しかし、白衣高血圧症も、のちに高血圧症に進行することが多く、やはり診察室血圧測定と、家庭血圧測定の両方が常に必要となります。
家庭血圧測定時の注意点は、血圧には日内リズムがあり、例えば早朝起床時にのみ血圧が高い方もいます(糖尿病の患者さんで、朝に血糖が高い場合があるのと似ていて、早朝のカテコールアミン分泌増加に起因しているのかもしれません)。そのため血圧測定は1日1回ではなく、朝の起床後も含めた複数回の測定が必要です(毎日の必要はありません)。また、正常であれば夜間睡眠時は血圧が低下します。正常に低下する人を dipper と呼びます。しかし、この夜間の血圧の低下がない方がいて non-dipper とよび、さらには夜間血圧が上昇する方もいて riser とよびます。このように夜間睡眠中のみに血圧が高い方は高血圧の診断が難しく、24時間血圧測定を行わないと診断できません(インスリン治療中の糖尿病の患者さんで、朝方3時~4時頃に血糖が低い場合は24時間の糖測定を行わないとわからないのと似ています)。
血圧の治療目標は、75歳未満の方は130/80(診察室血圧)、125/75(家庭血圧) で、75歳以上の方は140/90(診察室血圧)、135/85(家庭血圧) です。他のリスク疾患がある方はより低く設定します。
もう一つの注意点は、高血圧の原因となる特殊な基礎疾患がある場合です。その代表が、原発性アルドステロン症という疾患です。またある種の漢方薬や、睡眠時無呼吸症候群も原因として潜んでいないか注意が必要です。
治療は、塩分摂取が多い方は減塩が必要です。およその塩分摂取量は尿検査を行うと推定できます。薬剤は、Caブロッカー、アンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、利尿薬、βブロッカー、そしてミネラルコルチコイド受容体(MR)拮抗薬などがあります。現在日本では、Caブロッカーが、次にARBが最も処方されており、確実な高圧作用に加え臓器保護作用もあると推測されています。
現在、日常診療において採血検査を容易に行える脂質には、総コレステロール(Chol)、LDLコレステロール(LDL-C)、HDLコレステロール(HDL-C)、中性脂肪(TG)があります。どれも重要な脂質ですが、動脈硬化と最も密接に関連しエビデンスも豊富に蓄積しているのはLDLコレステロールで、いわゆる悪玉コレステロールです。LDLコレステロールとは、LDLというリポ蛋白質に含まれているコレステロールです。コレステロールや中性脂肪は脂なので、そのままでは血液に溶けないことから、蛋白質(アポ蛋白)と結合してリポ蛋白(脂肪+アポ蛋白)として血液に溶けています。LDLはリポ蛋白で、LDLコレステロールはLDLというリポ蛋白に含まれているコレステロールというわけです。LDLは、LDL受容体により肝臓や末梢細胞に取り込まれますので、このLDL受容体が脂質代謝にとって非常に重要となります。
一方、家族性高コレステロール血症(Familial hypercholesterolemia:FH)という疾患があります。遺伝性疾患で、高LDLコレステロール血症をきたし、心臓をはじめとした動脈の血管に粥状動脈硬化を起こし、狭心症や心筋梗塞を発症してしまう疾患です。この疾患は色々な遺伝子の異常により生じますが、最も多い遺伝子異常はLDL受容体遺伝子の異常です。人間のほとんどの遺伝子は、両親から1個ずつの遺伝子を受け継いでいるため、合わせて2個ずつの遺伝子を有しています。このLDL受容体遺伝子もまた両親から1個ずつもらっていて、合計2個のLDL受容体遺伝子を持っています。この2個のLDL受容体遺伝子のうち、1個だけに異常のある場合が FHヘテロ接合体(heterozygous FH: HeFH)で、2個とも異常のある場合が FHホモ接合体(homozygous FH: HoFH)です。当然のことながら、HeFHの患者さんの方が相対的に軽度で、HoFHの患者さんの方が重度となります。HoFHの患者さんは、日本では25万人に1名で約500名と推定され少ないのですが、HeFHの患者さんは250~300人に1名と決して少なくありません。この家族性高コレステロール血症の診断は、遺伝子診断が日常診療ではできないため、また遺伝性でない高LDLコレステロール血症の患者さんの血液中のLDLコレステロール値の範囲と重なるため簡単とは言えません。一つの目安は、LDLコレステロールが162mg/dlを超える場合(J Atheroscler Thromb. 12 (1), 2005)や、アキレス腱や眼瞼に黄色腫がある場合や、皮膚に結節性黄色種を認める場合です。この黄色種は脂肪を含んだ細胞が集まってできたもので、物理的な刺激を受けやすい場所に出現します。家族性高コレステロール血症を引き起こす遺伝子異常には、LDL受容体遺伝子の他に、APOBやPCSK9という遺伝子が挙げられます。
高LDLコレステロール血症の治療は、遺伝性であれ、遺伝性以外であれ、まずはスタチンand/orエゼチミブとなります。スタチンには、シンバスタチン、フルバスタチン、アトルバスタチン、ピバスタチン、ロスバスタチンがあります。薬にはどんな薬でも副作用が起こることがありますが、スタチンに特徴的な副作用としてはスタチン関連筋症状といって、筋肉の障害が起こることがまれにあります。投与開始後4~6週間は注意が必要です。このスタチンand/orエゼチミブで効果不十分の場合には次の薬剤の使用を検討するのですが、そういった薬剤の中に先ほどお話ししたPCSK9に対する阻害薬(抗体)があります。高LDLコレステロール血症による動脈硬化病変の程度・リスクは、その時の血液中のLDLコレステロール値に加えて、高LDL血症であった期間も重要です。家族性高コレステロール血症の場合は、幼少期から長期間にわたり高LDL血症にさらされていることから、より厳格な治療が必要で、薬物治療で治療効果が不十分な場合には、LDLアフェレーシスといった体外循環を用いた治療が必要となることがあります。
準備中
貧血の原因は多岐にわたりますが、最も注意すべきは出血、とりわけ消化管出血で、胃内視鏡検査・大腸内視鏡検査を行うことを検討する場合が多いです。また、血液疾患でも貧血をきたします。代表的でよく知られた血液疾患としては、リンパ腫、白血病、多発性骨髄腫があげられます。
リンパ腫の中で最も多いのは びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse Large B-Cell Lymphoma:DLBCL)です。進行期DLBCLの初回治療(First Line:1L)は、リツキシマブ(R)と化学療法を組み合わせたR-CHOP療法か、ポラツズマブベドチン(P)と化学療法を組み合わせたP-R-CHP療法です。これに局所的に放射線療法を加えることもあります。これらの治療をしっかり行えた患者さんでは、半数以上の方が完全寛解となります。進行期の悪性腫瘍が薬物療法で治癒するというのは血液腫瘍ならではのことで、血液内科医の責任は重大ですし、そこへ橋渡しする総合内科医の役割も重要です。完全寛解になっても再発した、あるいはそもそも薬物療法が効かずに寛解に至らなかった(再発・難治)患者さんは2回目の治療が必要となります(Second Line:2L)。しかし、2Lの治療が有効な患者さんの割合は1Lほどには高くないので、造血幹細胞移植(Hematopoietic Stem Cell Transplantation:HSCT)か、遺伝子改変技術を応用したCAR-T療法を行うことを検討します。HSCTには自家(auto-)と同種(allo-)がありますが、DLBCLの場合は一般に自分の幹細胞を採取して投与するauto-HSCTが行われ、採取する場所は末梢血で、末梢血幹細胞移植(Peripheral Blood Stem Cell transplantation:PBSCT) が選択されます(auto-PBSCT)。もう一つのCAR-T療法は、患者さん自身のリンパ球を採取して遺伝子改変し、増殖させるのですが、非常に高額なのでメディアでも話題になりました。日本では、現在5種類のCAR-Tが承認されていますが、DLBCLに適しているのは3種類です。なお、DLBCLは様々な病態が含まれており、単一な疾患ではありません。しばしば、Germinal Center B-cell(GCB)subtype と、Activated B-Cell(ABC)subtype の2つに分類し、一般にはABC typeの方が予後が悪いのですが、一部のGCB typeはABC typeより予後が悪く、今後より病態に応じた分類に変化してゆくかと思います。
白血病には、急性・慢性、骨髄球性・リンパ球性などの区別から、いくつかに分類されています。代表的な疾患は成人では急性骨髄性白血病(Acute Myeloid Lyukemia:AML)と慢性骨髄性白血病(Chronic Myeloid Lyukemi:CML)で、小児では急性リンパ球性白血病(Acute Lymphoblastic Leukemia:ALL)です。
急性骨髄性白血病(AML)の初回治療(1L)はアントラサイクリン(ダウノルビシン:DNR、もしくはイダルビシン:IDR)とシタラビン(AraC)とうい抗癌剤で、若年患者さんが標準的な治療をきちんと受けられた場合、その完全寛解率は70~80%となりますが、高齢(65歳以上)患者さんの場合は標準的な治療に耐えられない場合も多く、その有効率は落ちます。再発・難治性(2L)のAMLに対しては同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)が可能か検討します。また再発・難治性の場合は、白血病細胞のFLT3という遺伝子に変異があるか調べ、変異がある場合にはFLT3阻害薬(ギルテリチニブ、キザルチニブ)が有効なので使用します。キザルチニブは1Lでも使用可能です。AMLに対するCAR-T療法は、今のところ日本で承認されたものはありません。
慢性骨髄性白血病(CML)は白血病細胞がPhiladelphia染色体という特殊な染色体を持っていることが特徴で、BCR-ABL融合遺伝子を持ち、BCR-ABLチロシンキナーゼが活性化していることが1980年代に判明しました。その後、このキナーゼに対する分子標的薬を服用することで、5年生存率は90%を超えています。医学の進歩で最も恩恵を受けた疾患の一つです。
成人急性リンパ球性白血病(ALL)は小児に比べると、少なくて予後が不良です。初回治療(1L)はPhiladelphia染色体という特殊な染色体が白血病細胞に有るか無いかで治療薬が異なってきます。Philadelphia染色体陽性の場合や、陰性でも予後不良因子がある場合は同種造血幹細胞移植(allo-HSCT)が推奨されます。再発・難治性(2L)のALL患者さんは、25才以下で白血病細胞のCD19が陽性であればCAR-T療法を検討します。ALLに対するCAR-T療法薬は、日本では現在1種類が承認されています。また、免疫療法として、CD19と標的としたブリナツモマブという分子標的治療薬も承認されています。なお、ALLの治療時には、治療の有効性や、治療後の再発の早期発見のために、免疫グロブリン重鎖/T細胞受容体遺伝子再構成をPCR法で増殖して微小残存腫瘍細胞(minimal residual disease: MRD)を検出する方法が確立しています。
多発性骨髄腫(multiple myeloma: MM)は形質細胞という免疫グロブリンを産生する細胞が腫瘍化して増殖し、血液中に免疫グロブリンが著明に増加する疾患です。増殖した腫瘍細胞自体による骨をはじめとした病変以外に、過剰の免疫グロブリンによる障害が加わって様々な症状が発現します。新規に診断された多発性骨髄腫(Newly Diagnosed Multiple Myeloma: NDMM)の患者さんの初回治療(1L)は、移植が適する(Transplant Eligible: TE)か、適さない(Transplant Ineligible: TI)かによって分かれます。骨髄腫の治療薬は、40年以上にわたって標準治療薬であったメルファラン、プレドニゾロンの他に、MMに特有な治療薬がいくつかあります。プロテアソーム阻害薬(ボルテゾミブ、カルフィルゾミブ、イキサゾミブ)、免疫調節薬(サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド)、抗CD38抗体(ダラツムマブ、イサツキシマブ)などで、それらを組み合わせて治療します。移植適応が有れば、ボルテゾミブ(BOR)+レナリドミド(LEN)+デキサメタゾン(DEX)を併用したBLD療法などの後に移植を行います。移植方法は、骨髄腫の場合もDLBCLの場合と同じようにまずは自家末梢血幹細胞移植(auto-PBSCT)が一般的です。移植後は地固め療法として薬物治療を追加します。移植適応がない場合は、ダラツムマブ(DARA)+レナリドミド(LEN)+低用量デキサメタゾン(DEX)を用いたDLd療法や、ダラツムマブ(DARA)+メルファラン(MEL)+プレドニゾロン(PSL)+ボルテゾミブ(BOR)を用いたD-MPB療法などを行います。骨髄腫はなかなか完治せず、多くの患者さんで再発・難治性多発性骨髄腫(Relapse/Refractory Multiple Myeloma: RRMM)となり、2次治療(2L)、3次治療(3L)、4次治療(4L)が必要となります。CAR-T療法に関しては、現在日本では、BCMAという形質細胞に特有なたんぱく質を標的とした2種類のCAR-T療法が承認されています。
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